News

冥王星に広がる驚きの地形と深まる謎

冥王星(疑似カラー)
ニューホライズンズによる新たな計測から、冥王星が直径2370km(地球の18.5%)とこれまで考えられていたよりもわずかに大きいことが判明した。一方のカロンは直径1208km(地球の9.5%)で予想どおりだった。 Credit: NASA/JHUAPL/SWRI

太陽系の外れ、中心から50億km離れた薄暗い宇宙空間を周回する冥王星と、その最大の衛星カロンは、衝撃的なほど活動的で若々しかった。2015年7月14日、NASAの探査機ニューホライズンズは冥王星の上空1万2500kmまで接近し、歴史的なフライバイに見事成功した。間近で撮影された冥王星と衛星カロンの貴重な画像の数々は翌15日から公開され始め、その驚きの内容に今、天文学界は大いに沸き立っている。

まず意外だったのは、冥王星とカロンが互いに全く似ていないこと、そしていずれも地質学的に活発と見られることだ。冥王星の氷に覆われた表面は実に変化に富んでおり、明るい領域と暗い領域、滑らかな領域と起伏の激しい領域、という対照的かつ多様な要素で構成されている。これに対しカロンの表面は比較的均一で、延々と伸びる巨大な峡谷やクレーターが見られる程度だが、興味深い発見が少ないわけではない。特に、極域に広がる暗い領域は科学者たちの関心を引き付けている。

今回のミッションの副プロジェクトサイエンティストであるサウスウェスト研究所(米国コロラド州ボールダー)の惑星科学者Cathy Olkinは、15日の朝、初めて届いた一連の画像を目にしたときの様子を「みんな、興奮しどおしでした」と語る。「冥王星もカロンも、私たちの期待を裏切らない姿をしていました」。

冥王星の表面を初めて詳細に捉えた画像には、険しい氷の山々が連なっているのが確認された。高いもので約3500mと富士山に匹敵することから、ミッションチームは、冥王星の山々が主に水の氷で構成されている可能性が高いと考えている。冥王星の表面は窒素やメタンなどの氷で覆われていると予想されているが、約−235℃という表面温度では、これらの氷はもろ過ぎて山を形作ることはできない。つまり、この環境で強固な「岩盤」になり得るのは、水の氷のみと考えられるのだ。ただし、山頂付近の明るく見える部分は、窒素など水以外の氷で薄く覆われている可能性がある。

この山脈付近にはまた、衝突クレーターが1つも見当たらない。固体天体の表面は通常、隕石などの小天体の衝突によるクレーターで覆い尽くされているが、冥王星にはそうしたクレーターが極めて少ないのだ。ミッションチームはこの理由について、冥王星の表面が地質学的に非常に「若い」ためではないかと考えている。「放射性元素の崩壊熱を熱源として地質活動が起こり、この領域の表面が新しい物質で覆われたのかもしれません」とアリゾナ大学(米国トゥーソン)の惑星科学者Veronica Brayは言う。

明るい領域と暗い領域

冥王星の全体像で特に印象的なのは、ハート形をした平坦な明るい領域と、クレーターが点在する暗い領域とのコントラストだろう。ハッブル宇宙望遠鏡による観測からも、冥王星の表面に明暗があることは分かっていたが、画像がぼやけていてまだら模様にしか見えていなかった。今回ニューホライズンズが撮影した画像では、これらのまだら模様が、ハート形の明るい領域と複数の暗い領域として鮮明に捉えられており、明暗の境界線もはっきりと分かる。

トンボー領域の南西境界域
画面上部にはポリゴン地形を有するスプートニク平原が、下部には暗いクトゥルフ領域が広がっている。クトゥルフ領域には複数のクレーターが認められ、中には明るい色の物質で充填されているものもある。また、この境界部では新たに、高さ1000~1500mの山々が連なっているのが発見され、テンジン・ノルゲイと共にエベレストに初登頂したエドモンド・ヒラリーにちなみ、暫定的に「ヒラリー山脈(Hillary Montes)」と名付けられた。最初に発見されたノルゲイ山脈は画面右側。 Credit: NASA/JHUAPL/SWRI

NASAの主任科学者Ellen Stofanは、「冥王星は実在する場所であり、信じられないほど複雑な地質学的特徴を持っています。美しく、そして奇妙な場所です」と言う。

ミッションチームは、今回明らかになった特徴的な領域や地形に、暫定的にさまざまな名前を付けている。例えば、前出の険しい山並みは、エベレストに初登頂した1人であるテンジン・ノルゲイにちなんで「ノルゲイ山脈(Norgay Montes)」と名付けられた。また、ハート形の明るい領域は冥王星の発見者クライド・トンボーにちなんで「トンボー領域(Tombaugh Regio)」、赤道付近をほぼ一周する暗い領域(当初「クジラ」と呼ばれていた)は、米国の作家H.P.ラブクラフトの小説に登場するタコのような姿の神にちなんで「クトゥルフ領域(Cthulhu Regio)」と呼ばれている。

冥王星の地質学的特徴はこれまでほとんど何も分かっておらず、そのため科学者たちは今回のフライバイにそれほど期待はしていなかった1。ところが、得られた結果は、いい意味で期待を裏切るものだった。暗い領域にはいくつもの衝突クレーターがあり、クレーターの見られない明るい領域よりも地質学的に古いことが分かる。またクレーターの中には、消えかけていたり部分的に消えたりしているものがあり、未知の地質過程による侵食や埋没の可能性が考えられる。さらに、内部が明るい色の物質で満たされているように見えるクレーターは、地下物質の露出もしくは窒素の氷などが充填している可能性がある。

冥王星の表面の明るさの違いは、地形に加えて、表面を覆う氷の種類の違い(窒素やメタン、一酸化炭素など)に起因すると考えられる。また、明るさの違いそれ自体が、明暗の差をさらに押し広げている可能性もある。明るい領域は光を反射するために温度が下がり、より多くの氷ができるのに対し、暗い領域は光を吸収するために温度が上がり、氷が溶けやすくなるからだ。

7月17日には、ハート形をしたトンボー領域のより詳細な画像が公開された。ハート形の中央やや左、ノルゲイ山脈の北方には、網目状の模様が刻まれた氷の平原が広がっている。この地形は地球の永久凍土などに特有の「ポリゴン」に似ている。浅い溝により不規則な形状に隔てられた各区画の一辺は約20~30kmで、暗い色の物質で満たされている溝や、溝が完全に埋まり逆に小高い丘が形成されている部分もあった。この領域は、世界初の人工衛星スプートニク号にちなんで「スプートニク平原(Sputnik Planum)」と名付けられた。

また、24日に公開されたスプートニク平原北縁部の近接画像には、窒素の氷からなると思われる「氷河」が、周囲へと流れ出している様子が映し出されていた。冥王星の表面温度を踏まえると水の氷が流れているとは考えにくいが、窒素の氷なら、その厚さが1km程度で、かつ放射性元素の崩壊による地熱があると仮定すれば十分説明が付くと、ミッションチームのメンバーでワシントン大学(米国セントルイス)の惑星科学者William McKinnonは言う。

トンボー領域は一見均一だが、左半分と右半分とではわずかに明るさが違う。複数の画像データを統合して組成や構造の情報を反映させた疑似カラー画像では、左右の特徴の違いがより顕著だ。ミッションチームはその様子について、左側のスプートニク平原の特徴的な明るい色の氷が、右側さらには下側(南方)へと流れて広がった結果ではないかと考えている。

衛星カロン
カロンには、冥王星よりも多くの衝突クレーターが認められるが、それでもその数は予想していたよりはるかに少ない。堀状の溝に囲まれた大きな山、という謎の地形は、拡大図の上部左隅に見られる。 Credit: NASA/JHUAPL/SWRI

「証言者」カロン

衛星カロンもまた、多くの驚きをもたらしている。極域を覆う暗い領域はその最たるもので、黒っぽくて謎めいていることから、非公式に「モルドール(Mordor;J.R.R.トールキンの小説『指輪物語』に登場する冥王サウロンの王国で「黒の国」という意味)」と呼ばれている。モルドールは暗い色の物質が堆積してできたものと見られ、色の境界が不鮮明なことから、その層は比較的薄いと考えられる。一方、その基盤となっている地形の境界は極めて明瞭で特徴的だ。暗い色の物質の起源については、宇宙線などによる表面の氷の変色や、冥王星から流出した大気成分の堆積、そしてカロン内部からの揮発性物質の放出など、さまざまな可能性が浮かび上がっている。

冥王星とカロンは、常に同じ面を向け合いながら回転している。これは冥王星の自転周期とカロンの自転・公転周期が全て6.4日と同じであるためだ。この連星系はおそらく、太陽系が誕生して間もない頃に、原始冥王星に巨大な天体が衝突して形成されたと考えられている。カロンの軌道はかつて大きくつぶれた楕円形をしていた可能性があり、その時の潮汐応力によってカロンの表面に長い断裂が生じた、とする説がある2。今回ニューホライズンズが撮影したカロンの画像には、崖や溝からなる長さ約1000kmに及ぶ断裂や、深さ約9kmに達する深い峡谷が認められた。アリゾナ州立大学(米国テンピー)の惑星科学者Alyssa Rhodenは、こうした断裂の地図を作成して、内部応力の予想に一致するかどうか確認したいと考えている。「カロンは、私の想像をはるかに超えた素晴らしいもので溢れていました」と彼女は言う。深い峡谷の存在はまた、そこにかつて海があった可能性も示唆している。太古の海が凍った際に、地表を押し広げて深い谷を形成した、とも考えられるからだ。

カロンの表面には、新しいと見られる衝突クレーターがいくつかあり、冥王星よりも「傷跡」が多いことから、Olkinはカロンの方が、この連星系の形成過程を解明するための「ウィットネスプレート(証拠板)」として優れているのではないか、と考えている。しかし、衝突クレーターが点在する地域には、周囲を堀状の溝に囲まれた大きな山も発見されており、謎は深まるばかりだ。

冥王星の大気のもやの層 Credit: NASA/JHUAPL/SWRI

大気のもや

最接近の7時間後、遠ざかりつつあるニューホライズンズが振り返って撮影した冥王星の画像は、美しく、そして度肝を抜くようなものだった。太陽に照らし出された冥王星の輪郭の周囲に、2つのもやの層を持つ大気がはっきりと映し出されていたのだ。しかも、その高度はそれぞれ50kmと80kmと予想以上に高かった。これまでの研究では、冥王星にもやが形成されるのは、高くても上空30kmまでだろうと考えられていた。それ以上の高度では、もやを形成するには温度が高過ぎるからだ。

こうしたもやは、冥王星に複雑な炭化水素が存在することを示唆している。大気中のメタンが太陽からの紫外線によって分解されると、エチレンやアセチレンなどのより複雑な炭化水素の生成が促進され、これらの物質が集積して下層大気へ落下すると、温度の低下により氷の粒子を形成する。こうした炭化水素の氷の粒子がもやの正体であり、これらはさらに紫外線によって「ソリン(tholin)」と総称される一連の複雑な有機化合物に変換される。ソリンは概して赤みがかった色をしており、これらが表面上に降り注いで冥王星を赤褐色に染めている可能性もある。

毎日が誕生日

フライバイの前、科学者たちは冥王星のことを、海王星の重力に捕らえられて衛星になったと考えられている極寒の天体トリトンに似ているのではないか、と予想していた。しかし実際の冥王星は、トリトンよりはるかに変化に富んでいた。ミッションチームのメンバーであるNASAジェット推進研究所(カリフォルニア州パサデナ)の惑星科学者Bonnie Burattiは、「冥王星の方が断然興味深いです」と言う。

今回、詳細な観察を行うことができたのは冥王星の片方の半球だけだったが、ミッションに携わった科学者たちは、そのデータに十分満足している。ハート形の領域がある面が選ばれたのは、地球から見たときに最も明るかったからだ。

ニューホライズンズがフライバイの24時間で収集した膨大な量のデータは、16カ月かけて少しずつ地球に送信されることになっている。7月31日、ニューホライズンズはデータ送信に注力するため、システムのモードを切り替えた。現在は、太陽風や宇宙環境などに関するさまざまな機器データが送られてきており、次に新たな画像データが届くのは9月の中旬という。これまでに届いたデータ量はまだ全体のわずか5%にすぎず、全てのデータがそろうまで、ミッションチームの研究者たちは毎朝8時に集合して、新たな分析結果を検討していく予定だ。「毎日誕生日プレゼントが届くようなものです」と、Burattiは目を輝かせる。

翻訳:三枝小夜子、編集:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150902

原文

Pluto’s massive mountains hint at geological mysteries
  • Nature (2015-07-15) | DOI: 10.1038/nature.2015.17986
  • Alexandra Witze

参考文献

  1. Moore, J. M. et al. Icarus 246, 65–81 (2015).
  2. Rhoden, A. R., Henning, W., Hurford, T. A. & Hamilton, D. P. Icarus 246, 11–20 (2015).